邦画

『雲のむこう、約束の場所』は難解なSFの世界に淡い恋心を描く【ネタバレ感想】

新海誠監督の作品を観たのは5作目。観た順番は「君の名は。」「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「天気の子」そして本作「雲のむこう、約束の場所」。

あらすじだけ見て、なんとなく「ほんのり甘酸っぱい恋愛系かな」みたいに思ってたら思い切り裏切られました。

いや序盤の方は、電車で「もう着いちゃう…、わたし昨日こうやって藤沢君と一緒に帰る夢見たんだ」って言ってるサユリ超かわいいなって思いながらほのぼのと観てたんですけど、途中から「宇宙のみる夢」とかよくわからない話が出てきて「???」とわりと置いてけぼりにされます。

 

恋心は確かに土台にあるんだけど、それをとりまく環境が難解。「ユニオンの塔」、「平行宇宙」、「ウィルタ」、等々意味がわからないままにストーリーが進んでいってしまうのでずっともやもやした状態で最後までいきます。予備知識なくて初見でスッと見れる人なかなかいないと思うぞこれ…。

だけど、「君の名は。」や「天気の子」の原点と思えるような設定や構成が見られてそういう視点で楽しめる作品でもあります。見終わってから背景や言葉の意味をある程度整理したうえで、感想と個人的に感じたこの作品の魅力、気になった点を書いていきます。

あらすじ

雲のむこう、約束の場所 予告編 (The Place Promised in Our Early Days)

 

中学三年生の藤沢 浩紀(ふじさわ ひろき)が憧れていたのは、「同級生の沢渡 佐由理(さわたり さゆり)」と「津軽海峡を挟んだ国境の向こうにそびえる巨大な塔(ユニオンの塔)」。親友の白川 拓也(しらかわ たくや)と共に飛行機「ヴェラシーラ」を作り、塔まで飛んでいく計画を立てていた。ある日その計画を佐由理に知られてしまうが、佐由理は強い関心を示し三人は一緒に行く約束をする。しかし、佐由理は原因不明の睡眠障害になり、二人に何も言えぬまま姿を消してしまう。

というわけで感想を書いていきます。以下ネタバレなので映画を観てからの方が楽しめます。

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『雲のむこう、約束の場所』感想

藤沢 浩紀の声が吉岡秀隆だった衝撃

 

まずはこれ(これかいってツッコまれそうだけど)。主人公の声優は「Dr.コトー診療所」「北の国から」でおなじみ吉岡秀隆。独特の低い声で、「なんてやるせない声なんだ…どっかで聞いたことある声だな…」って思ってたけど、エンドロールであんただったのかと笑ってしまった。

中学時代は非モテ感ある浩紀だが、東京での高校生活はモテている模様。しかし心の中では佐由理に一途な浩紀は同級生や女子と触れ合っても孤独を感じてしまい、抜け殻のような生活を送っていた。

白川 拓也(しらかわ たくや)がモテすぎる

 

スケート部の拓也は後輩の女の子にラブレターを渡され告白される。浩紀の「また断ったのか、いつもみたいに」という発言から、拓也はモテキャラということがわかる。解せない。というのも、登場時は理知的な印象はあるがそんなにかっこいいキャラにも見えなかったからだ。

しかし三年後、高校生になった拓也はちゃんとクールで優秀なイケメンになっていた。研究室の笠原 真希(かさはら まき)に好意を抱かれている。しかも真希は美人だ。頭のいいイケメンは美人にモテるのは世の常なのである。解せない。

とにかく佐由理(さゆり)がかわいすぎる

 

佐由理は全男が惚れるようなかわいさと天真爛漫さと純粋さと無邪気さと無垢さを兼ね揃えているスーパーガールです。この子なくしてこの映画は成り立たない。浩紀の憧れであるけれど拓也も佐由理のことが好きな様子で、拓也が「いつものように告白を断っていた」のも佐由理のことが気になっていたからでしょう。

 

ちなみに、22:00あたりで「夢網/森下さなえ著」という恋愛小説を読んでいます。本作には村上春樹の「アフターダーク」や宮沢賢治の詩集『春と修羅』に含まれる「永訣の朝」など実在する本も出てきますが、「夢網」という本は実在していないようです。「夢網」というタイトルからは、佐由理が眠っている間ずっと夢に苦しんで網から抜け出せないような、そんなことを暗示しているかのようです。

ユニオンの塔とはなんだったのか

 

作中のキーとなる国境の向こうにそびえたつユニオンの塔。まさにこの塔が雲の向こうの約束の場所となります。ユニオンは共産国家の連合軍です(その辺も詳しくは説明されないからわかりづらい)。

浩紀は「僕にとってとても大切なものがあの場所には待っている気がした。とにかく気持ちが焦がれた」と最初の方で表現しています。それもそのはず、この塔は浩紀が恋焦がれる佐由理、その祖父(エクスン・ツキノエ)が設計したものであり、塔の情報が佐由理の夢に流れ込むようになっていました。佐由理はそのせいで睡眠障害になってしまい、この塔まで行かないと眠りから覚めないようになっていました。

「ユニオンの塔」は「約束の場所」であり、「佐由理を救える唯一の場所」

だったのです。「あの日の約束が沢渡の現実への絆なんです」と拓也は言います。

エクスン・ツキノエは初めて平行世界の実存を証明したユニオンの研究者なのですが、名前が名前なだけにややこしくて、「ん?佐由理の祖父はどこの国の人?つまり佐由理はクオーター?」みたいな疑問が浮かびます(佐由理は祖父とは会ったことはなく、その理由は南北分断だと言っていました)が、エクソン・ツキノエは元々は本州の出身だったと富澤常夫教授が発言していました。

平行宇宙とは

 

宇宙が見る夢、と言われるのが「平行宇宙」。これが非常に難解。真希が「こうであったかもしれない、という様々な可能性をこの世界は夢の中に隠していて、そのことを平行世界とか分岐宇宙と呼んでいます」と説明していますが、平行宇宙と平行世界、分岐宇宙は同義なのでしょう。

生物の脳も太古から無意識のうちにを感知していて、それが人の予感や予知の源泉なのかもしれないと語る真希。ユニオンの塔は平行宇宙の膨大な情報を受信して、周囲を書き換えてしまう(位相変換)力を持っています。

ここは一度映画で観ただけではとても難しくわかりにくいのです。しかも平行宇宙は肉眼で確認できてしまうというわけわからなさ。

端的に「平行宇宙は夢」と考えたらわかりやすいかもしれません。つまり平行宇宙がこの世界を覆うということは、夢が現実を覆い、この世界が塗り替わってしまう、すなわち現実世界の崩壊を意味します。元々はユニオンが戦争の兵器として制作した塔ですが、世界の崩壊を招いてしまうというところまでは設計者も意図していなかったのかもしれません。

しかし塔のとらえた平行宇宙の情報は佐由理の夢に流れ込んでいて、脳がそれを受け止めきれず佐由理はずっと眠りについています。もし佐由理が目覚めれば、平行宇宙は世界に方向を向け、世界を覆ってしまうのです。

ウィルタとは

 

ユニオンの塔の破壊を企てる反ユニオン組織がウィルタ解放戦線で、浩紀と拓也がバイトをしていた蝦夷製作所の社長岡部がリーダーを務めています。

岡部と拓也の指導教官である富澤は旧知の仲であり、東京の飲み屋で岡部が塔の破壊計画を冨澤に示唆しています。PL外殻爆弾を使用して塔を爆破させる計画です。

浩紀が完成したヴェラシーラに佐由理を乗せて塔に向かう計画を聞いた岡部は、PL外殻爆弾を載せたミサイルを託し、塔を壊すよう命じます。

 

エンディングに関して

 

さて、ウダウダと書いてきましたが、ここまでの情報があったうえでもう一度観ると作品がわかりやすいと思います。が、しかし正直、本質のストーリーは上記を理解していなくても大丈夫です。わからないので確かにモヤモヤするところはありますが、物語の根幹は愛する女性を救うのか、世界を救うのか、です。

それでも佐由理を助けることを優先した浩紀と、否定しながらも最終的にそれを助けた拓也。そして、ここで大事なのが岡部と冨澤の二人の過去です。

 

岡部は浩紀にウィルタの最終目的ともいえるユニオンの塔破壊の鍵を握るPL外殻爆弾を浩紀に託しました。なぜそんな大切なものをまだ高校生の浩紀に託したのか。そしてその話を岡部と冨澤が電話でやり取りしているとき、二人は過去を思い出します。冨澤の部屋には若かりし二人と一人の女性、そして飛行機が映った写真が飾られていました。

おそらく彼らも昔、ユニオンの塔に憧れ、飛行機であそこまで行こうとしていたのでしょう。岡部が東京の飲み屋で冨澤に浩紀と拓也が飛行機を作っている話をした時、冨澤は「懐かしいなあ」と言いました。なぜ「懐かしい」と思ったのか…? と疑問に思いましたが、その答えは二人に同じ思い出があったからだったのです。拓也と真希が岡部の製作所で話をしていた時も、岡部はユニオンの塔に憧れていたと発言していました。

そして、岡部は昔叶えられなかった夢を、浩紀と拓也に託したくなったのかもしれません。冨澤も、話を聞いてしぶしぶながらも応諾しています。

 

それにしても、あの写真に一緒に映っていた女性は誰だったのか。まさか佐由理の母親…?と推測もできますが、これは劇中に出てこないので確かめようがありません。

 

いずれにせよ、浩紀は託されたPL外殻爆弾を使用します。

塔を破壊することで佐由理も世界も救ってしまうのです。

 

ある意味ではハッピーエンドなのですが、佐由理は目を覚ますとともに浩紀をずっと好きだった記憶も失ってしまいます。「大丈夫だよ、目が覚めたんだから、これから全部、また」と浩紀が言い、物語はそこで終了。

ここから二人は再び愛を育んでいくのかと思いたいところですが、ここで冒頭のシーンを振り返ってみると、大人になった浩紀は飛行機を作っていた廃駅に向かい、約束の場所(ユニオンの塔)がなくなったことに想いを馳せています。そして、佐由理との記憶も。

そこに佐由理はいませんでした。理由はどうあれ、浩紀は佐由理とはその後うまくいかなかったのでしょう。※ここは小説版でその後が描かれています。

『君の名は。』と『天気の子』の原点?

 

浩紀が夢の中で佐由理と会うシーンは、『君の名は。』のたそがれ時の瀧と三葉が出会うシーンを彷彿させます。もうほぼ同じ感じです。先に観たのは君の名は。なんですが、このシーンがたそがれ時に活かされているのかと思うと感動するものがありました。

また、一人の女性を救うのか、世界を救うのか。という物語は、『天気の子』に通ずるものがあります。

新海誠監督の物語や構成、登場人物は他の作品に随所に表れているのですね。

そういった意味で過去作品を観ていくのも面白いと思います。