邦画

『万引き家族』ネタバレ感想 盗んだ絆は本物か━━ この時代に観るべき名作

ずっと観たいと思っていながらなんだかんだ観れておらず、先日地上波で放送があった時(2019/7/20)は友人から「松岡茉優のちょっとえっちなシーンはカットされるだろうからちゃんと別で観た方がいいぞ」という助言に従い、後日ノーカットだったことを知って友人に激怒したのは有名な話だ。

 

リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林という豪華キャストで、監督が『そして父になる』の是枝裕和。カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝いたというこの作品、ようやく観れました。

 

結論、こういう映画が好きです。悲惨な児童虐待のニュースが絶えないようなこの時代だからこそ生み出された作品だと思います。調べてみたら、実際にあった親の死亡届を出さずに年金を不正に貰い続けていたある家族の事件をもとに是枝監督が構想10年近くをかけて作った話ということを知りました。

以下ネタバレ。

主要な登場人物

・柴田治(リリー・フランキー)

・柴田信代(安藤サクラ)

・柴田亜紀(松岡茉優)

・柴田祥太(城桧吏)

・ゆり=北条じゅり=りん(佐々木みゆ)

・柴田初枝(樹木希林)

『万引き家族』感想

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この映画で考えさせられたのは、「本当の家族の繋がりとは」だった。今この時代、この日本には実の子どもを虐待する(時に死に至らしめる)親のニュースが後を絶たない。信じられないし、考えたくもないけれど、実際にそんな悲劇が起きている。子どもは親を選べない。自分で生きていくこともできない子どもが、すがるしかない親に身も心も苦しめられていく様子を想像するだけで胸が苦しくなる。

 

この映画は、そんな日常的に虐待を受けていた女の子ゆり(本当の名は「じゅり」、のちに「りん」の名を与えられる)を、ある家族が偶然見つけて、不憫に思い自分の家に連れてきてしまった話だ。家族は温かかった。りんは救われた、間違いなく。だけどその家族は、亜紀以外の全員が犯罪(主に万引き)をしていた。

 

万引きは、犯罪だ。「お店においてあるものは、まだ誰のものでもない」と祥太は治に教わっていたけれど、店の商品は店のものだ。店がお金を払って仕入れたもので、それを盗むことは許されない行為だ。祥太は物語の中で少しずつ「本当の絆」や「万引き・犯罪の悪」を考えるようになり、成長していく。印象的なシーンをいくつかピックアップしこうと思う。

 

気づいていた駄菓子屋の店主

 

祥太の万引きを駄菓子屋の店主(柄本明)が気づいていたこと。気づいていながらずっと見逃していたこと。だけどりんに万引きをさせたのを見た店主は怒らずに、「これやる」と盗んだものより大きなお菓子を祥太にあげ、「妹には(万引きを)させんなよ」と諭す。それが祥太の心をえぐった。自分の「万引き」という行為は、間違っているんじゃないかと。今まで生活のためや、家族がやっているからと正当化しようとしていた行為を疑い始めた。罪悪感、良心の呵責、そういったものが祥太に湧き始める。

祖母の死

 

祖母・初枝の死。葬儀をせずに穴を掘って遺体を埋めた。治は祥太に「いいか、これは内緒だぞ。ばあちゃんは最初からいなかった。俺たちは五人家族だ」と言い聞かせていたけれど、これを幼い祥太に背負わせるのはあまりにも酷すぎる。

 

初枝が亜紀の両親からもらっていたお金を治と信代が見つけ、喜んでいるところを祥太は黙って見つめる。なんともいえない気持ちになった。仮の家族とはいえ、死んだばかりの祖母のお金を喜んでいる様子を見た祥太の心中はいかばかりか。これももちろん、「盗み」だ。治と信代は初枝の本当の息子夫婦ではない。それを祥太もわかっているからこそ、不信に思わずにはいられなかったはず。

(ちなみにお金は計15万円だった。「全部3万ずつ」だと信代が言っていたので、そこにあるお金が全てだとすると5回もらっていたことなる)

 

協力できなかった車上荒らし

 

不信感が消えない祥汰は治に「これは人のものじゃないの?」と問うけれど、治からは「だから?」という開き直った答えしか返ってこず、車上荒らしの協力を拒否する。そして「僕を助けてくれたときも何かを盗もうとしてたのか」という問いには、「お前を助けようと思っていた」というが、祥太はもうそれが嘘だとわかってしまって立ち尽くす。この時祥太は動悸が激しかったのでかなり動揺していた様子が見て取れる。

 

祥汰は治が昔パチンコ店の駐車場で車上あらしをしていた際に車中に閉じ込められぐったりしていたところを発見され、連れ出された。車上荒らしの話は祥太にしていなかったのだろう。だけど祥太は気づいてしまった。自分が犯罪の一環で助け出された事実に。

 

意図的に捕まった万引き事件

 

そして祥太はスーパーでゆりを残し万引きをしようとした際、待っていろと指示したはずのゆりが同じように万引きをしようとしていることに気づく。治が自分に万引きを教えたように、そしてそれが染みついてしまっていることを、祥太は自分がゆりにしてしまったのだと思った(と思う)。万引きは悪いことだと、犯罪だと認識している苦悩の祥汰は自身が行った過ちを、ゆりに気づかせるために敢えて店員に目立つように万引きをして逃げて、捕まった。

 

そして入院した祥太を置いて、逃げようとした家族も全員捕ってしまい、ここで全員が血の繋がりのない家族だったことが判明する。

 

一つ大きく考えさせられたのはここだった。

家族は祥太を置いて逃げようとしたのだ。でも逃げるしかなかった。治も信代も祥太の本当の親ではなく、実際は拾ってきた(盗んできた)子どもだったからだ。警察に関係を問い詰められ、家族がバラバラになるのは明白だった。

どれだけ温かい家族でも、正当な繋がりがなくてはいけない。手順を踏まず、盗んだ子どもを育てることはできない。遅かれ早かれ別れの時はやってきたはずだ。

 

そして今回そのきっかけを作ったのは、不正に疑念を抱いた祥太がわざと起こした万引き事件だった。現状を変えたい祥太の意志なのだ。

核心をついた最後の問い

 

冬の寒い日、治の部屋で過ごした祥太。一緒に布団に包まりながら、祥太は治に「僕を置いて逃げようとしたのか」と問う。答えはわかっていた。だけど、この質問にはかなりの勇気が必要だっただろう。

 

数秒の間の後、「ああ、した。その前に捕まっちゃったけど」と答える治。「父ちゃんはおじさんに戻るよ」と。

治も悟るのだ。わかっていたことを。実の息子のように接し、父と呼んでもらいたくても、それが叶わないことを。治の部屋で二人カップラーメンを食べ、コロッケをスープにつけて食べるのは誰に教わったのかという問いに、祥太は誰とは答えず”目を見るだけ”で治だと伝えた。

 

ここでハッとした。取調べで信代が「子ども二人はあなたのことをなんて呼んでいたのか」という質問に涙したわけも。信代も悟ったんだ、母親になれなかったことを。「なんだろうね」と涙するしかできなかった。祥太もりんも、治と信代をお父さん、お母さんと呼ぶことはなかった。

 

本当の家族とは

 

物語の最後、祥太は治に「わざと捕まったこと」を告白する。自分の意志で別れを選んだことを。だけどバスの中で、祥太は何かを呟いた。「お父さん」だった。

本人に対して声に出して言うことは一度もなかったけれど、祥太にとっては紛れもなく”お父さん”だったのだ。

そして虐待の日々に戻ったりんも、廊下の手すりに身を乗り出して何かを言いかけたところで物語は終了する。遠くを眺めながら、あの今にも崩れそうな家で過ごした家族の温かみを思い出して、あの日々に戻りたいと思ったのだと思う。

本当の親に捨てられたに近い二人の子どもにとって、拾ってくれた仮の家族と過ごした日々は宝物だったに違いない。あの家族は、偽物でも、不正や万引きで繋がっていても、間違いなく、家族だった。

 

信代は取調べで「母親が憎かったかもね」と述べる。子どもが欲しくても自分に子どもが産めないのに、我が子を大事にしない母親がいることへの苛立ち、憎しみがあった。

また物語の中盤、りんがテレビで行方不明と騒がれていたことを知ったあと、りんは本当の両親の元に戻らずに仮の家族にそのままいることを選んだ。信代は「自分で選んだ方が絆が強い」と初枝にいい、初枝も「私はあんたを選んだんだよ(絆は強い)」と返す。

 

でもその絆はいざという時に脆かった。初枝は死後、地中に埋められ、祥太は捕まって家族に逃げられようとした。

 

本当の家族じゃないと守れないのだ。盗んだもので、盗んだ絆で生きている人たちが、まっとうに家族を守ることはできない。

 

親、子供、血の繋がりのある家族を大切にする、当たり前のことだ。だけど当たり前のことが当たり前にできていない。当たり前にしなくちゃいけない。そんなことを考えさせられた。

最後に

 

あとこれは絶対に書いておきたいのだけれど、安藤サクラの演技がすごすぎました。感動しました。安藤サクラが出演している作品をあまり知らないのだけれど、こんなに凄い女優さんであることを知らなくて、この豪華キャストの中でも抜きんでた演技だったなと感じました。

・クリーニング店で解雇を迫られ、りんと一緒にいるところを見たと言われた時「そんかわり言ったら殺す」までの仕草、表情

・祥太をおいて家族で逃げようとして見つかった時のすべてを悟って俯いているときの表情

・取調べで子どもになんて呼ばれていたかを問われたあとの泣きの仕草

特にこのあたりが印象的でした。

勿論、リリー・フランキーも樹木希林も松岡茉優も子役二人も素晴らしい演技でした。邦画っていいですね。邦画の良さを再確認できた名作でした。

 

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