邦画

『さよならくちびる』はエモーショナルな余韻にずっと浸れる最高の音楽映画【ネタバレ感想】

『さよならくちびる』を映画館で観たのがもう一年前。そのとき”最高” この二文字に尽きる、という感想を抱いて、ときどきハルレオの音楽を聴きながらエモーショナルな余韻に浸っていました。今もそれは続いていて、そしてまた無性に観たくなったので調べてみたらU-NEXTが配信してたので登録して観ました、二回目。やっぱり最高だった。

 

あいみょんと秦基博が作る歌を、劇中で小松菜奈と門脇麦が歌うんです。僕なんかは宮崎あおいの『ソラニン』に心打たれた族のひとりですから、『さよならくちびる』のように「音楽×人」みたいな映画は震えるんです。観る前からエモーショナルな映画であることは予想できていたんですけど、深く、棘が今も心に突き刺さってる。まるで「この棘は抜けないままでいい ずっと 忘れないでいるから」と歌うさよならくちびるの一節のように、この感情のままでいたいと思ってる。

 

予告

【公式】『さよならくちびる』5.31(金)公開/本予告

 

終始憂いと哀しみを帯びていた映画でした。愛したくて、愛されたくて、愛されなくて。心をどこに持って行ったらいいかわからない。そんな三人の人間関係が、痛いほど突き刺さってきました。

女性二人組ユニット「ハルレオ」は解散を決定し、最後の全国ツアーに回るところから物語は始まります。じゃあなぜ解散するに至ったのか。そこには複雑な人間関係が絡み合っていました。その辺も含めて印象に残ったシーンを中心に感想を語っていこうと思います。

以下、ネタバレありです。ご注意。

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さよならくちびる感想

冒頭から最高すぎましたね。「車内飲食禁止ルール」を注意されたレオ(小松菜奈)が、たばこを吸っていたハル(門脇麦)に「車内禁煙ルールもね!」と目を見開いて吐き捨てるシーン。小松菜奈の目力って世界一だと思う。圧倒的存在感。始まりを告げる力強さ。

 

ハルの作ったカレーを食べて涙するレオに泣く

レオがハルに音楽を誘われて、ハルの家で作ってくれたカレーを食べながら泣いていたシーン。想像でしかないのだけれど、レオはそれまでの人生で愛情を受けてこなかったんだろうと思わざるを得なかった。久しぶりに人の愛に触れて、泣くしかなかったんだろうなって。それを困惑しながらも受け止めるハル。

込み上げてくる感情を抑えきれずに涙を流して、何を泣いているんだと自分でふっと笑う小松菜奈と、動揺しながらも優しく受け止めて髪にキスをした門脇麦の空気。あの哀愁。主演がこの二人でよかったと心から思った、あの切なさを伝えられるのは、この二人じゃないときっと駄目だった。

孤独で荒みきったレオの心を温かい光で照らしてくれたのがハルです。そしてハルは音楽の才能の塊だった。

インタビューをぶち壊すレオ

ハルレオがテレビ取材を受けていて、インタビュアーがレオそっちのけでハルの魅力ばかりを語り、その場に堪えられなくなったレオがドンと大きい音を立ててその場を離れていくシーン。

勿論、レオはハルが凄いことなんて知っている。ハルの紡ぎだす作詞のセンスも、生み出すメロディーも、その感受性も、いつも隣にいる自分が一番よくわかってる。でも、その隣にいる自分は、いったい何者なんだろう。わたしはいったい誰なんだろう。羨望と嫉妬と劣等感と惨めさがぐちゃぐちゃに入り乱れた感情がレオの心にはあって、それが爆発したシーンでした。

 

小松菜奈、うまかったなぁ。取材の最初あたりからずっと不機嫌感出してたけど、だんだん仕草に表していって、カメラ回ってんのにビール飲んだりご飯食べたり、「わたしはついでなんでしょ?」と言わんばかりの表情。ハルの歌声を褒めるインタビュアーがとってつけたかのように「あ、レオさんもね」と言った直後、ドタドタと出ていったところはレオの心を全部映し出していた。

その後、レコード屋でシマ(成田凌)と会ったレオが、「私はハルの横の置物だよ」って呟くシーンがあったのだけど、そこに繋がっていたんだなと思いました。

インタビュアーの途方も無いくらいの空気読めなさがすごかったですね。そして彼女役は松本まりかだったんですね、最近よく出てくるようになったね。

レオを救うために命をかけたシマ、かっこよすぎて死ぬ

どうしようもない男にばかり引っかかってしまうレオ。それがわかっていてもその沼から抜けられない、ハルやシマに心配されればされるほど惨めになる。音楽の才能を持っているハルはいい、自分は所詮ハルの隣の置物でしかなくて、いったいどうしたいのか、なんのために歌っているのかもわからなくなる。そんな孤独な心境に落ちていったレオを救ったのはシマ(成田凌)でした。このときのシマのかっこよさに惚れる。部屋に押しかけていって、レオを外で抱きしめて、自分は中に入って後ろ手でドアの鍵をかけて、レオが入ってこれないようにして自分は男をぶん殴って取っ組み合い。激しい乱闘の末に相手とともに二階から転落してしまう。

でもレオはハルに言うんです。「シマが命をかけたのは誰のためだと思ってんだよ」と。レオが自分を命をかけて助けてくれたのは、ハルを悲しませないようにだと思ったのかな。レオは本当にどこまでも自尊心が低いね。シマはハルのことが好きだから確かにその気持ちもあったかもしれないけど、心からレオが心配で助けたに決まってるのにさ…。

ホームレスのマッサージを受ける水商売の女性にレオを重ねるハル

ライブのMCで印象に残ったのは、路上でマッサージを始めたホームレスの話。みすぼらしくて、汚くて、誰もその椅子に座らないと思っていたら、ある日女性が座ってとても気持ちよさそうにしている様子に強く惹かれたと。その女性はきっと、周りの視線や世間体なんかを気にしない自分の気持ちに正直な強い女性なんだと思う。ハルはそれらを気にしてしまってあの椅子に座れない。だから自分にないものを持つ人に憧れて、そうじゃない自分に悔しさを感じてしまうんです。

そして、その女性にレオを重ねる。レオは自分のことを卑下してばかりだけど、奔放に生きるレオにハルは憧れてもいるんです。そしてそれは恋愛感情でもあって。こんなに近いのに、どこまでも遠いレオを想って、ハルもこのままじゃ2人で音楽を続けられないと想っていったんでしょうね。

想いが詰まり、たばこで口を塞ぐハル

残す函館での最終ライブを控えて、最後だからと三人で喫茶店でご飯を食べるシーン。これがまた、カレーなんですよ。三人ともカレー。カレーっていったらレオがハルの作ったのを食べて泣いたあのシーン、見てた誰もが思い浮かんだろうな。絶対に何かある。そう思ってたらほら、ハルが「今日なんかおかしいな」って泣きました。正確には、涙を流す前にたばこで口を塞いだのだけれど。これがもう、まさにさよならくちびるなんですよ。何言ってるかわからないと思うので歌詞を引用しますけど、「さよならくちびる あふれそうな言葉を 慌てて たばこに火をつけ 塞いだ」という歌詞。たばこで口を塞ぐしかなかったんだ。

 

解散後、何をするか尋ねられたハルの心境。それはハルレオを続けたいっていう強い気持ちがあったんだと思います。ハルレオの結成時、目指せ武道館!目指せグラミー賞!とこぶしを高く上げるレオやシマに続けて、ハルは「目指せ!死ぬまで歌い続ける人生!」と言いました。ハルは歌いたかった。それもレオと、死ぬまで、ずっと。

でも、それを言い出せなかった。同性愛の悩みと苦しみを抱えて、自分がレオを好きで、それをレオは知っていて、レオに気を使ってもらったままハルレオを続けるのは無理だと思ったんだ。
「自分の弱さを 重ねて ごまかして これ以上はもう無理だよね」という歌詞も、ハルの気持ちを痛いほどに表している。

 

門脇麦の演技はもう、筆舌に尽くしがたいです。見ていて苦しくなりました。
言葉が、気持ちが、あふれないように、たばこに助けを求めるしかなかった。振り返ってみると、車内禁煙ルールを作ったのはハル自身なのに、いつしかハル自らがそれを破っていたことも、シマがハルレオのローディーとして加わったとき、レオとシマがくっつきそうな未来を予感して、レオを取られたくなくて、ユニット内恋愛禁止のルールを作ったことも、全部がハルのレオへの気持ちゆえだったんだなって思います。

ハルレオ、解散、、、?

そして最後の最後、解散全国ツアーを終えた三人が帰ってきて、もう赤の他人だから荷物は自分で担いで帰れと言ったシマ。何も言わずにぶっきらぼうに車を出て自分の荷物を取り、別れていくハルとレオ。終わりのシーン。

 

これ、みなさんどう思ったんだろう。自慢じゃないけど、僕は絶対に二人がすぐに車に戻ってくると思った。車中で物思いにふけるシマが映し出された時、これ、あの時と同じだって思いました。ツアー中どこかの森で、シマをホテルに誘ったレオの気持ちにシマが応えられず、言い争いのようになってレオがどこかへ行ってしまった時、車に戻ったシマがエンジンをかけようとしたらハルもレオも戻ってきたシーン。フラッシュバックしました。

 

ずっと憂いと哀しみを帯びていた作品だったんですけど、最後の最後に救いがありました。それは視聴者にとってなのか、ハルレオにとってなのかはわからないけれど。あの三人は今度どういう道をたどるんだろう。きっと喜びだけではいられない。苦しみながら、抜けないままの棘を心に残したまま。

 

「誰にだって訳があって 今を生きて 私にだって訳があって ギターを弾いている」(誰にだって訳がある)

 

「退屈な日々がこんなにも 激しく回ってる 旅はまだ続く 根拠もない 足跡もない 紡いだ言葉もそれほどないけれど 進んで行こう きっとこの先も 嵐は必ず来るが大丈夫さ」(たちまち嵐)

 

と二人が劇中で歌うんですが、二人とも、訳があって歌いながら、その先にずっと続いていってほしいと一視聴者ながらに願います。

最後に

ハルが「夢から醒めて 水を飲んだ あの水の味を わたしはいまもわすれない」
と車中で書き留めるシーンがあるのですが、僕はあの詩がすきでした。水の味も、その時の心境によって変わるんだよな。ハルが書き留める詩、せっかくなので載せておきます。

夜が来る。

身体がほてり 言葉がひとつ こぼれ落ちる。

それはとても冷たくて

触れた瞬間 思わず手放した。

もうカタチもわからない

今日またひとつ 言葉がわたしから逃げていく。

感情が 風に宿る

緑に宿る空に宿る

雲がちぎれていくとき

重なりあい ひとつになるとき

あたしは思わず心揺さぶられ、大地に座り込みたくなる。

天才か。全部すき。

 

「さよならくちびる」、また何度でも観たい映画です。水のように、見る時々の心境によって、感じ方が違ってくると思う。

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