社会で生きていくマネーの基本ーー『サイフの穴をふさぐには?』感想

「本を書いたから、送っていいかな」と、”作家から本が送られてくる”という日常ならざるライフイベントに一種の憧れを抱いている私だった。念願というには淡すぎるが、作家や漫画家、音楽家といったクリエイティブな職業に携わる友人が周りにいない私はそういうのに憧れていた。そして、ついにその念願叶ったり!という出来事が起きたかと思えば、なんか想像と違った。そもそもなんだその願いとは、小並感がすごすぎやしないかとこの文章を書きながら心配になる。むしろ自分が作家になって、友人に「ちょっと書いたからまぁ読んでくれたまえよ」と、坂上忍も驚きのドヤ顔で送りつけるくらいの野望を持ってもいいのではなかろうか。まぁそれはさておき、ツイッターで仲良くしているオロゴンさん(@orogongon)から先日DMをもらったのである。

「さいちゃん、4/1に出た本、送りつけてもよろしいかwww」

ん、なんか思ってたのと違う。なんの脈絡もなく送られてきたこの一文、なぜか盛大に「www」と笑っている。これはどういう感情なのだろうか。「ちょw 俺が本を送るのウケるwww しかも送りつけるてwww」と、記念すべき初出版でハイになっているのだろうか。その点はいったん無視することにして、ありがたく本を頂こうとも思った。これは私のひそやかな願いが叶う重大なライフイベントである。

しかし、オロゴンさんにはこれまで何度か食事を奢ってもらったことがあり、正直お世話になりっぱなしであった。しかもこれが記念すべき初著書であることも鑑みて、ここは一読者としてちゃんと購入すべきではなかろうか。オロゴンさんは「送りつけてもよろしいかwww」と笑いながら謎の圧をかけてきているが、おそらくこれは「本をもらえる」と解釈するよりは、「本をもらったあと、代金はちゃんと請求される」と解釈していたほうがいいかもしれない(本書でも、”インターネット上の詐欺にご用心!”という項目がある)。

ゆえに私は、DMをもらった足でそのまま本屋に向かった。するとそこで面白いものに出くわしたのである。

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東野圭吾ばりの色紙がそこにあった。知っている人が本を出すことも初めてであるが、ちゃんと書店に色紙を飾ってもらっていることは感慨深かった。あまりに感慨深くてちょっと爆笑してしまったくらいだ。

さて、そんなオロゴンさんの書籍『サイフの穴をふさぐには?』を読み終えたので、感想を書こうと思う。実は私はいま、村上春樹の『1Q84』を再読している真っ最中であった。しかしいったんその文庫本を置き、やれやれと言わんばかりに”オロ本”を読み始めたのであるが、これがまた非常にわかりやすく読みやすく面白かった。ページをめくる手が止まらない。

本書は書店では「投資」「節約」に分類されていたが、私はいわゆるビジネス書なるものは基本的に読まない。ビジネス書よりも物語を好むタチなので、本を読むと言ったらもっぱら小説だ。そんなビジネス書を普段受けつけていない私の体が、手が、脳が、なぜこうも「早くページをめくれ」と急かすのか。

考えた結果、三つの点がある。

小説形式で読みやすい

一つ目に、本書は小説形式で書かれている。中堅機械メーカーに勤める28歳の冴えない青年・三崎ソウタが、貯金箱に魂を宿らせた神(見た目はただの豚)と出会い、「学校も会社も教えてくれない税とお金と社会の真実」を教えてもらいながら少しずつ成長していく物語だ。飛べない豚はただの豚だが、この豚は飛べないくせにただの豚ではない。最初は見るからに胡散臭く、正直イラっとする空気をフルスロットル全開で出してくる得体の知れない豚なのにも関わらず、読み進めるごとにその信頼度が加速度的に上昇していく。

読みながら疑問に思ったことはすかさず尋ねる三崎と、それに対してズバッと答える豚。見事なまでの師弟関係が出来上っており、その会話もユーモアや毒を挟んで読者を地味に笑わせてくる。読みやすいだけでなく、単純に面白いのだ。ごちゃごちゃしてないのがいい。

 

お金にまつわることを網羅的に知ることができる

二つ目に、お金にまつわる知識がかなり身に付く。キャッシュレス決済、給与明細の見方、社会保険制度、連帯保証人、NISA、ideco、ふるさと納税、エトセトラ、エトセトラ…。いつか勉強しなきゃと思っていながらも、難しそうだと敬遠したり、何かと理由をつけて先延ばしにしていた制度や物事を、くだけたわかりやすい解説によって誰にでもその知識がかんたんに身につくようになっている。そこには難解な図式もわけのわからない公式も出てこない。出てくるのは豚である。繰り返しになるが、この豚がすごいのである。

本書で学ぶ物事は社会に出て誰かが教えてくれるものではない。しかし、それを知っているのと知らないのとでは家計や貯蓄に雲泥の差が出てくる。

「情報弱者」という言葉が本書にも出てくるが、私たちは知らず知らずのうちに情報社会に置いてけぼりにされ、身の回りに潜む甘い誘惑に引っかかってしまいかねない。クレジットカードのリボ払いや投資の儲け話、高額な情報商材、情報に疎く、弱い人たちから搾取しようとするトラップが道を歩いているだけでそこかしこに仕掛けられてある。悲しいことに実際そんな世の中を生きている私たちは、最低限の知識を身につけて自分で自分の身を守らなければならない。本書は、そういった知らないことに対する危機感を高めてくれる。

 

ツイッターの疑問を解決してくれる

三つ目に、SNS上の疑問も解決してくれる点だ。私はツイッターにほとんどの時間滞在しているツイ廃だ。すると気づけば奇々怪々な企画がタイムラインを跋扈していることがよくある。たとえばZOZOの前社長であった前澤氏よろしく、100万円ばらまき企画が一時とても流行った。わけのわからないアカウントに乗っかる人も数多くいた。怪しいとは思ったものの、あれらの企画の意図はよくわからないままにしていた(わからずともいいやとスルーしていた)。本書はそういったツイッターでよくみる事例も解説してくれるので、「あれはそういうことだったのか」とどこか気にしていた心がスッキリ晴れ渡るのである。ツイッターに常駐している人は一読して損はない。

 

これらの点から、読み始めてから一日二日であっという間に読み終えてしまった。オロゴンさんの最大の持ち味である”わかりやすさ”、これは日頃ツイッターで簡潔かつ明瞭に濃縮されているが、140字の制限を飛び越えるとここまで様々なことを網羅する本になるのかと新鮮な感覚だった。これ続きあるかな。あるといいな。あの豚また見てみたい。