映画『火口のふたり』を観ました。何気にずっと観たいと思ってたんですけど、映画館に行こうと思った頃にはもう終わっていたんですよね。だからNetflixで見つけたときはほんと神に感謝しました。
この映画何がすごいって、キャストが主演の二人しか出てこないんですよね。塚本佑と瀧内公美。すべてをこの二人に委ねていた。そして素晴らしかった。秋田の田舎風景の中で邦画独特の虚しさと侘しさがすべて詰め込まれていました。
一見、マリッジブルーの女性が最後に昔の恋人と肉欲に溺れる様子を描いただけのようにも見えるんですけど、この記事ではもう少し深く感想を書いていこうと思います。ネタバレするので未視聴の方はご注意ください。
予告
本作は、塚本佑演じる永原賢治と、瀧内公美演じる佐藤直子のいとこ同士の物語です。先ほども書きましたがこの二人しか出てきません。
セックスで溶け合っていく二人
賢治は父親から直子が結婚する話を聞きます。結婚式に参加するため東京から秋田の実家に帰ったところを直子が賢治の元を訪ねます。
久しぶりの再会ですが自然に話を二人。直子は当然のように家に上がり、賢治が今の今まで寝ていた布団を畳みながら賢治の母親の話をします。賢治の母はガンで亡くなったのですが、父親はその一年後に伸子という女性と再婚した話などがここでわかります。
賢治は直子の買い物に面倒くさそうにしながらも付き合って、昼にラーメンを食べるときは「東京から帰っても、(直子が)人妻じゃあね」と意味深な言葉を吐きます。
その後直子は実家に賢治を連れていき、数々のセックス写真を収めたアルバムをめくりながら、「健ちゃんの体を思い出してた」と恋しさを滲ませます。
そして直子の新居にテレビを運んでもらい、帰ろうとする賢治を引き止めてあのセリフを言うんです。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
なんですかこの展開!?!?
賢治は直子の空気を察して最初は帰ろうとしてたのに、この伝説のセリフのあとはもう受け入れるのの早いこと早いこと。もはや抵抗しない。玄関でそのまま始めちゃう。この辺りがけっこう生々しくて、バックでなかなか入らないからって「ごめん」って言ったり、挿れながらベッドに向かったり、もはや理性を解放した野獣のようでした。
そこからの賢治の変わり身といったら凄いですよ。次の日朝勃ちしてるの見てすかさず直子の新居に行ってズカズカと上がってはテーブルに押し倒して無理やりパンツ脱がせていきなり挿入。何も言わずに最後まで。
「今夜だけって言ったでしょ」と言いながらレバニラ屋に連れていった直子の神経にも驚かされる。賢治は完全に開き直り、「そっちが勝手に火をつけておきながらあとは自分で消せなんて虫が良すぎる」などと言って直子を説得し、「五日後には解放してやるよ」と謎の上からな言葉まで吐く始末。
ここからはもう、ただ食べて寝てセックスしての五日間です。言ってしませばそれだけです。でも、体を重ね合っていくうちに少しずつ賢治の状況や直子の心境がわかってくるんですね。それをどう捉えるかがこの映画のミソなのかなと思います。
賢治に結婚を語る資格などない
賢治は浮気ぐせのある男です。直子と東京で付き合っていた頃にも浮気していましたし、その相手と結婚してからもまたべつの女性と浮気しました。クズです。
直子には「子ども産みたいからって結婚するのは動機不純だと思わないか? この人とずっと一緒にいたいと思えるのか?」などと偉そうに説教していましたが、賢治はかつて子ども作る気がなかったのにできてしまった為やむなく結婚しています。
結婚後に浮気がバレて離婚し、子どもとの面会権を放棄させられた賢治に結婚を語る資格など何一つありませんね。
現在も定職につかずたまにバイトする程度で暮らしているので、外からの魅力など一つもないでしょう。ただ一人、直子を除いては。残念ながら直子は、賢治の体でないと燃えないのです。感じないのです。
「いとこ同士のセックス」感じ方の相違
元々賢治はいとこの直子とセックスするのが怖かったと言いました。近親相姦みたいで一種の気持ち悪さを感じていたのでしょう。
対して直子は血が濃ゆいからこそ感じるのだという考えています。他の誰でもセックスでここまで燃えることはなかったと語ります。
「賢ちゃんの体はたまらないといつも思ってたけど、やっぱりつくづくそうだと思ったよ」
小さい頃から一緒にいて、母親を失ってからは賢治の母が本当の母親のように接してくれた過去からも、特別な環境を共有する賢治に抱く感情は並ではなかったのでしょう。
賢治は求めてくる直子との肉欲に溺れていきました。でもその快楽には「いとことセックスしている」という負い目が常にまとわりついていたのです。それから逃げるように浮気した。すると今度は直子への罪悪感が襲ってくる。だから賢治は今度は酒に溺れ、「死にたい」と叫んで直子を呼び出し、富士山の火口で一度心中するんです。
賢治は不器用で弱い男です。離婚して一人になったあとも罪悪感で苦しみ精神科に通うようになり、会社も辞めました。罪悪感に苦しむとわかっているなら浮気しなければいいのに、わかっていながらも止められない弱い人間だったんです。
元はと言えば直子を捨てたのも賢治です。いくら直子がまた求めてきたからといって、それを受け入れる資格もないでしょう。さらに今度は賢治の方から直子は求めるなんて愚の骨頂とも言えます。
でも、直子は賢治といることで初めて救われるんです。直子にとっては賢治でないとダメだから。直子はダメでどうしようもない賢治のそばでないと自分らしくいられないんです。
直子にとっての負い目とは
この作品でひとつ、重大なファクターとなっているのが東日本大震災です。賢治は震災の影響で再就職した印刷会社が一年で倒産しました。また直子は地震にひどく怯えています。
甚大な被害が起きた岩手や宮城と同じ東北である秋田にいながら、日本海側でそこまで被害を受けなかった負い目というものを感じて生きていました。被災地で活躍する自衛隊には感謝の思いもあったでしょう。直子は自分が子宮筋腫が大きくなった焦りも相まって、自衛隊の人と結婚する選択をしたのです。
でも、直子が本当に愛しているのが賢治なのは誰の目から見ても明らかです。そして直子の夫となる人は富士山の噴火による被災地の現地指揮という極秘任務を任され、目前に迫った結婚式を延期することになりました。
直前まで楽しんだ賢治との五日間の直後に結婚式延期ですから、直子がこの人とうまくやっていくのは無理だと見限るのは自然だったかもしれません。結婚式の延期は通常ありえませんが、自衛隊の任務なので仕方ないのですが。
「火口のふたり」の意味とは
東日本大震災という実際に起きた災害と、富士山の噴火という実際に起きていない災害が本作で混在しているのが少し困惑しましたが、富士山の噴火は賢治と直子にとっては必要な出来事だったのだと思います。
だからこそ直子は本心では望んでいない結婚に見切りをつけることができたし、賢治と生きていく覚悟も生まれた。二人は富士山の火口で心中したあの日から、ずっと心は死んでいたんです。ずっと火口にいたふたりなんです。ずっと沈黙していた富士山が噴火することによって、二人の時間はまた進み始めたのだと思います。
と、やや解説気味に書きましたが、それにしても本作はひたすらエロかった。塚本佑のなんとも言えない表情や演技は吸い込まれるものがあるんですけど、瀧内公美の虚しい空気感も胸を打つものがあります。性描写半端ない。艶かしい。だって普通に綺麗な女優さんじゃないですか。よくオファー受けてくれた…って観ながらまた神に感謝しましたよほんと。
バスの中で喘ぎ声あげるとことか観てるこっちがハラハラします。ぜったい隣にいたおばちゃんとか後ろで目閉じてたおばあちゃん起きてたやろ。ぜったい目開けたくても開けられなかったやつやろ。
でもほんとね、路地でセックスするのも小学生に悪影響だからやめましょうね。興奮するのはわかるけれども。