久しぶりに映画感想記事書きます。
『ジョゼと虎と魚たち』がアニメーション映画化されると聞いた時は、「まじか!!」ってなって、しかも絵が完全にかわいくて超好みだったから「これは観ねば…ッ」と思ってたんですけど、気づけば公開されてて慌ててみてきました。2020年最後の映画はこの作品になったわけですが、結論からいうとめちゃくちゃ良かった。
あのね、全然ね、実写版と違います。
僕は映画観に行く時はだいたい予習せずに観る派で、なんとなく最初は実写をなぞる感じかなーとか思ってたんですけど、全然違って、もはや別作品。
ipadとか、スマホとかね、出てくる時点で「なんか思ってたのと違う」って衝撃を冒頭から受けます(いい意味で)。
ここからは超ネタバレありで、実写版との違いも書いていくのでご注意ください。
(Eveの『蒼のワルツ』名曲すぎるやろ…)
ヒーローになった恒夫と料理でなく絵が上手くなったジョゼ
実写版はね、あの妻夫木くんが、恒夫を演じちゃっていたわけですが。あの女好きでどうしようもない恒夫はアニメ版のどこにもいません。今回の恒夫は常に超イケメン。
まずバイト先がダイビングショップって。ダイビングショップって。いや麻雀店じゃないんかーい。えらくオシャレになっとるやないかーい。
しかも、夢はメキシコにしか生息しない幻の魚の群れをその目で見ることだって。メキシコに留学するために勉強もがんばっていて、でもお金ないからバイト掛け持ちして夢のために頑張っていて、なんかキラキラしてる。まぶしい。妻夫木くんのどうしようもないだらしなさがどこにもない。
そしてジョゼが困った時に助けてくれるヒーローっぷり。まずは冒頭のね、坂から猛スピードで車椅子でやってくるジャンピングジョゼをキャッチするとこが出会いだから。運命かよ。しかもジョゼは助けられときながら
ジョゼ「何ベタベタ触ってんねん変態」
恒夫「グッ…」
みたいな会話するあたり、あれこれ少女漫画かな?ってくらいの展開。
他にも、外出禁止令のジョゼが初めて家出したとき。踏切カンカンなってるなか車椅子で果敢に線路に突入してるところを冷静に止めたり。「おおお危ねえ」って焦ったからねあそこ。そのまま2人で海に行って、海水がしょっぱいかどうかを確かめたくて、必死に這いつくばって海へと近くジョゼを抱き上げるとことか。
「最初で最後のチャンスかもしれへんのや…」
って父親とのエピソード語るジョゼ。もう泣く。
あとは、最後もそうだね。雪でスリップしてブレーキのきかない車椅子が坂を猛スピードでくだっていって、弾き飛ばされるジャンピングジョゼをナイスキャッチするからね。デジャブね。冒頭のあれね。
まぁ恒夫はそんな感じでダメ男だった実写版がアニメ版では完璧なヒーローに変貌したわけです。
それでジョゼは、基本的な性格は実写とも変わってないです。ウブだし、強がりだし、意地っ張りだし、なぜかいつでも上からだし、でも寂しがりやだし、本当は超おんなの子だし、素直じゃないし、照れ屋だし、恥ずかしがり屋だし、でもあったかいし、そして誰よりも強いとことか。
でも、実写の、台所の高い台からドスンッ!て落ちる目を背けたくなるような描写はないとことかはまぁ、このアニメ映画にはそぐわないと配慮したのはわかるんですが。ただ一つだけ。
料理のうまいジョゼはどこにいった???
ジョゼ料理しないんだ??ってのは正直、めちゃくちゃ残念。だっていつかジョゼの作るだし巻きが食べたくて生きてるようなもんです僕は。
ジョゼ「婆ちゃん今日は私が料理作るでー」
婆ちゃん「じょ、ジョゼが…ッ?」
みたいなやりとりあって、ああ普段ジョゼ料理しないんだーっていう、悲しみ。その代わり、絵が超絶うまいっていう設定になってました。でも絵はとても幻想的かつ独創的で、ジョゼの感性が生きている感じで好きでした。
ただね、ジョゼのかわいさは実写も最高だったけど、アニメ版はマジでかわいさが半端ない。かわいさのほとばしりが留まるところを知らない。絵がかわいいってのももちろんあるんですけど、ジョゼのツンデレを200%くらい引き出してる感じ。
実写版が纏っていたあの退廃的で絶望的な空気がアニメ版は完全に払拭されているので、ただただかわいさだけが残ってます。
恒夫のバイト先に初めて行った時の反応はもうたまらんやつでしたね。ジョゼはね、恒夫との2人での空間しか知らなかったから、自分の知らない世界で恒夫が他の人間(女の子も含め)と話しているのを見て、嫉妬と寂しさが爆発したわけです。
恒夫の袖つねって「もう帰る」って言ってたのはかわいすぎたし、あと関係ないけど恒夫の友人の隼人が「ジョゼ子ちゃん」って呼んでるのなんかツボでした。
希望的なアニメ版 VS 絶望的な実写版
恒夫が事故にあって、もう歩けなくなるかもしれないという事態になり(それもジョゼに「健常者に(身体障害者)の気持ちはわからん」と言われた直後に)、そこからジョゼが一度諦めた絵の夢を再チャレンジし恒夫を励ますための絵本を作り上げて、そして恒夫の消えかけていた火を灯し、恒夫はリハビリを頑張り、2人は結ばれ、それぞれの夢を叶えていく。
という見事なまでの希望的な展開で描かれ、超ハッピーエンドで終わるのがアニメ版です。ちなみにジョゼが図書館で「人魚姫とかがやきのつばさ」の自作絵本読んでる時、恒夫が涙流したのに合わせて僕も泣きました。そして最後の最後まで温かい気持ちになるんです、この映画は、とても。
対して実写版は、ジョゼと恒夫は付き合うんですけど最後、「僕は、逃げた」といってジョゼと別れてしまう。障害者と共に生きていく覚悟を恒夫は最後背負いきれずに、他の女の元に逃げていってしまうんです。
恒夫は罪悪感と、自分の弱さに泣いていて、でもジョゼは涙を流さずに、一人でたくましく車椅子を漕いでいて。だからね、最後。ジョゼの気持ちを思うと胸が痛くて、苦しかった。また恒夫にいない深い海の底に潜っていったんです。
二人はラブホテルでこんな会話をしていました。
ジョゼ「深い深い海の底。うちは底から泳いできたんや。そこには光も音もなくて、風も吹かんし、雨も降らへん。シーンと静かやねん」
恒夫「寂しいじゃん」
ジョゼ「別に寂しくない。初めから何もないもん。ゆっくり時間が流れるだけ。うちはもうあの場所には戻られへんのやろ。いつかあんたがおらんようになったら、迷子の貝殻みたいに、独りぼっちで海の底をコロコロコロコロ転がることになるんやろ」
こんなことを話していて、最後結局恒夫はいなくなってしまった。それでもジョゼは一人で生きていかなきゃいけなくて、その切なさと苦しさに締め付けられるのが、実写版の良さだったんです。
ただ、魚が映像で泳ぐラブホテルにいって、ジョゼがいう「あんたとこの世で一番エロいことするために生まれてきたんや」(セリフややうろ覚え)というのが好きでした。ジョゼの深く悟ったような哀愁が、胸を刺してきました。
だからタイトル『ジョゼと虎と魚たち』の”魚”が、実写とアニメは違うんですね。実写はラブホテルに映る魚。アニメは恒夫の夢の魚、幻の魚の群れ。
実写版の言いようのない絶望感だったり、障害者と向き合うことの難しさや生々しさだったりをあえて完全に排除して、アニメ版はかわいくてキラキラしていました。最後もとても温かい気持ちにしてくれました。
実写とのあまりの違いに「うおおこうなるのかー!!!」と震えました。実写の絶望的な空気が好きな人には物足りなさもあるかもしれないけど、なんどもいうけど僕は好きです。実写も好きだけど、アニメも好き。
ジョゼに救いをもたらしてくれて、心からありがとうと言いたい。やっぱりジョゼが好きだ。
▼ツイッターやってます。
『ジョゼと虎と魚たち』観てきた。実写版をなぞるような内容と当初思っていたらもはや全く違った。でもジョゼの不器用さと、意地っぱりと、弱さと、脆さと、儚さと、温かさと、強さはそのままに、そして本当に馬鹿みたいにかわいかった。これは現代版のジョゼ作品だ。なんだろうな、海に行きたくなった pic.twitter.com/wtm5O631bn
— sai (@saichans_b) December 30, 2020