邦画

映画『劇場』ネタバレ感想 途方もない脱力感に襲われ、胸が締めつけられる

原作が又吉直樹、主演は山﨑賢人、松岡茉優。もちろん豪華なんですけど、僕が興味を惹かれたのは『GO』『真夜中の五分前』の行定勲監督。特に『真夜中の五分前』が好きすぎたのもあって行定監督の映画はぜんぶ観ようと決めています。

映画館とアマゾンプライム同時公開っていってもアマプラ会員じゃないし、『劇場』ってタイトルだけに映画館で観た方がいいでしょって思ったら福岡で上映してる映画館がほっとんどなくて、結局アマプラ会員なりました(一度退会して二度目だから無料体験期間ではない!)。でも500円なら安すぎるでしょ。とうわけで、観ました、『劇場』。

 

136分の上映時間、僕の感情は喜怒哀楽でいうと「怒」の割合がいちばん占めてて、どうしようもない永田(山崎賢人)と沙希(松岡茉優)がどうしようもなく壊れていく様を「そりゃそうだよな…」って感覚で観てて。けっこう終盤近くまで「なんで僕はこれを観ているんだろう…」と気だるい倦怠感が付きまといました。でも終盤は胸が締め付けられて、ただただ苦しい。切ないとか哀しいとかじゃない、苦しい。しばらく引きずってしまう”痛み”があります。

 

以下、ネタバレあり。印象的だったところを書いていきます。

予告

映画『劇場』予告

 

永田と沙希は出会いから既に理解を超えていた

高校時代の友人野原と劇団「おろか」を立ち上げ、演劇の世界で成功を信じ演出と脚本を担う永田(山崎賢人)と、女優を目指して青森から上京してきた女子大生の沙希(松岡茉優)が出会うところから全ては始まります。

 

異常なのはこの始まり方。街で偶然目があっただけの沙希を追いかけて、「靴、一緒ですね」と話しかけ、ナンパかと思いきや「今はお金がないので」と逆にアイスコーヒーをご馳走される奇跡の展開を見せてくれる永田。思わず沙希に「なんで奢る!?」って突っ込まざるをえないんですけど、もう出会った時から沙希は永田に惹かれていたんだろうし、永田は沙希を離しちゃだめだと思ったんだろうな。

それが証拠に永田は知人や沙希以外の人間には徹底的に人見知りを発揮します。沙希が誰かと話をしていたら距離をとって不気味な不審者感を前面に出しますし、人に対して”愛想”というものが壊滅的にない。こんな永田が見ず知らずの人に話しかけられるわけはないし、追いかけるはずもないんです。それなのにまるで人見知りという概念を忘れてしまったように沙希に話しかけた。沙希は沙希でぼろぼろの服と清潔感ゼロの永田から逃げるどころかなんだかんだアイスコーヒーご馳走してあげる。客観的に見ると理解を超えていますが、だからこそ2人が一緒に暮らし出すのは自然なことだったのかもしれない。

どうしようもない無力感と脱力感に襲われ続ける

そうやって始まった永田と沙希の共同生活が、いや、その共同生活を観てるのが、ひたすらに虚無。永田は劇団が酷評されてばかりで後輩からの指摘や注意にも聞く耳を持たず反発する。劇団員の青山(伊藤沙莉)に言った「暴言吐いても謝ったらいいんでしょ? 一生背負わないといけないルックスに関する暴言と、自分のこといい女だと勘違いしてる恥ずかしい女に対する暴言と、どっちから聞く?」というセリフはゾッとするし、そのあと後輩に闇討ちされる始末。

 

もうこいつはダメだ…って思うんですけど、永田は「その日」という脚本を手がけて沙希に主演を依頼して一緒に作った演劇は成功を納めます。でも打ち上げで自分ではなく沙希にばかり賞賛が浴びていたのを見て、嫉妬心と独占欲、あるいは己の承認欲求が満たされなかったことから沙希を起用することはなくなって、やっぱダメだな…って思うわけです。

 

永田の手がける劇団は売れず、収入はなく、沙希の部屋に延々と居座り、沙希の実家から送られてくるものを食べながら、その母親には文句を言う。「何様」という単語が軽く一億回ほど頭に浮かびます。

それでも沙希は永田に甘い。徹底的に甘い。もうこの2人は見ててイライラすんの。永田は沙希の無垢な優しさが時に「バカにされている」「気を使われている」と神経を逆撫でされて、惨めなことがわかっているのに惨めを認めきれない自分。それでも沙希の笑顔に癒されて、沙希から離れられない自分。

そして底知れぬ嫉妬心を持つ永田は「沙希が大学の男友達に原付をもらったこと=自分以外の男と一緒にいたこと」に腹が立ち、原付をボコボコに壊す。友人から譲り受けた大切な原付を壊してしまったことに優しい沙希は心を痛めて大学に行かなくなってしまいます。

 

朝は洋服屋で働き、夜は居酒屋でバイトして生活費を稼ぐ沙希に対して、永田は夕方に起きて散歩して夜はゲームの日々。「今後のことも考えて水道光熱費くらい入れてくれない?」という沙希に対して「んーでも、ここ沙希ちゃん家だし、人の家の水道光熱費払う理由が…ね…わからん」って答える永田isクズofクズ。よくもまぁここまでのヒモ男になれたものだと感心するレベル。

 

だから観てて思うわけです「なんで僕はこれを観ているんだろう…」と。果たして僕は映画を見ているんだろうか、映画という名の虚無を見ているんだろうか? と。

永田の弱さが鏡となって自分の弱さが映し出された気がした

完全究極体の沙希のヒモと化し、演劇の夢もプライドを捨てられず、同時に沙希の資産も将来も蝕む永田に感情移入なんてできるわけがない。だけどなぜか永田の気持ちがわかってしまうし、嫌いになれない。

自分に才能がないことを認めること、世の中には天才と呼ばれる人種がいること、後輩たちからの意見を素直に受け入れることは、プライドの高い人間には簡単なことじゃない。自分が思うような自分になれず、何も成し遂げられず、彼女に迷惑ばかりかけて彼女をダメにしていることを理解していながらも生活を変える勇気がない永田のその弱さも、わかってしまう。

永田は何者にもなれなかった。どこまでも落ちて、浮き上がるために足掻くこともできなかった。その惨めで憐れな姿が、なぜか自分にリンクする。じゃあ僕は何ができているのだろうか。別に彼女をダメにしているわけじゃない、ちゃんと自立した生活を送っている。しかし、その生活は自分が望んだ仕事ができているだろうか。自分のやりたいことを成し遂げられているだろうか。ただ社会の歯車になって最低限の生活に甘んじているだけじゃないか。もがき、足掻くことをしていないのは、自分だってそうではないか。永田のことを言えるだろうか。そんなことが次々と浮かぶ。

この映画は恐ろしい。永田に苛立ち、人として終わっていると思いながらも永田のことが嫌いになれない。永田がさらけ出せない自分の弱さに、観ている僕の己の弱さが鏡のように映し出されてしまった気がした。

 

最後まで全てを肯定した沙希に胸が締め付けられる

恋は盲目とはよくいうが、沙希は永田と別々に暮らすようになって一緒にいるときは見えなかったことが徐々に見えるようになったのかもしれない。それと同時に27歳という年齢で地元の友人たちはみんな結婚してしまっているのに、自分は、という焦りから自暴自棄になり、壊れていく。酒に溺れ、たまにしか自分の元に帰ってこない永田に不満をぶつける。

「なぜこの2人は出会ってしまったのだろう」と僕は思った。傷を舐め合うような同棲は居心地はよかったかもしれない。しかしそれは抜け出せないドラッグのように自分たちの未来を蝕んでいったはずだ。それに気づいていたはずだ。

2人が出会わなければ、あるいは永田は劇団に没頭し、成功していたかもしれない。沙希は女優の夢を叶えていたかもしれない。でも出会ってしまったことで、2人の未来は壊れていくだけだった。わかりきった未来だった。なぜ出会ってしまっただろう、出会わなければよかったのに。そう思った。でも沙希は違った。

 

「私はずっと諦めるきっかけを探してたんだよ。何も悪いことしてないのに、ずっと変な罪悪感みたいなものがあったからさ。なが君のおかげで、惨めな気持ちじゃなくて、東京を楽しい気持ちで歩けたんだよ。なが君がいなかったら、もっと早く帰ってた。絶対」

 

と永田との出会いを全肯定した。沙希は女優に夢を見ながらも、実は諦めたかったんだ。でも諦めることに罪悪感を感じていて、そんな時に永田と出会った。永田といること、恋を楽しむことで自然と夢を諦めることができた。一方で永田は不安に押しつぶされそうになっていた時に沙希に出会った。出会っていなければ、二人はすでに壊れていたのかもしれない。二人は互いを壊しあったんじゃない、確かに救いあったんだ。それが沙希と永田の、二人の結論なんだと思う。じゃないと、哀しいだけだ。

 

この作品は、ほぼ全てを山崎賢人と松岡茉優の二人にスポットを当て、互いの周囲との関係がほとんど見えなかった。だから主演の二人にすべて委ねられているといる状況で、ここまで観せたのは演出の素晴らしさ、二人の演技の凄さだと思う。今まで味わったことのない無力感と痛みを、感じる作品でした。

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